学びの栞 (B) 


 39. 生命について


 39-a (生命は宇宙の子、星の子である)

 広大な宇宙には1000億個以上の銀河がある。その銀河の一つである銀河系(天の川銀河)の中心から、いて座腕とペルセウス腕という2本の巨大な渦巻き腕が伸びている。太陽系は2本の渦巻き腕のあいだにはさまれた、小さなオリオン腕のふちにある。
 そして地球は太陽のまわりを回っている、小さな惑星だ。宇宙の広さを思えば、地球はほんのちっぽけな存在でしかない。
 その地球に生命が生まれ、私たち人類が生きている。社会をつくり、文化を持ちビルの立ち並ぶ街をつくっている。宇宙の成り立ちや生命とは、人間とは何か、を知ろうとしている。
 生命とは何だろう。命あるものにはかならず死が訪れる。しかし35億年前、地球に生まれた生命は、絶えることなく続いてきた。単細胞生物は分裂して増えることで、多細胞生物は子孫を残すことで。一つの命は失われても、生命としては35億年間絶えたことがない。
 人間の生と死を考えると、死の定義は難しい。今話題の脳死の問題がある。以前は心臓と呼吸が止し、瞳孔の反射が止まったことで死と考えた。今は脳が死んだら死と決めようとしている。
 人間の死の判定は社会的な約束事だ。
 しかし生物学では、脳死とか心臓死にかかわらず、死んだ人の細胞を生かしつづけることができる。有名なヒーラ細胞がある。1951年に子宮ガンで亡くなったアメリカの女性の子宮の細胞だ。このガン細胞は非常に繁殖力が強く、実験に使いやすいので、世界中の研究室で使っている。本人は亡くなっているのに、一部はまだ生きている。
 細胞だけでなく、組織や器官も生かしつづけることができる。臓器移植すると、本人は死んでいるのに、ほかの人のからだの中で生きている。
 物理学、化学に基礎をおいて理解すると、生命は二つの性質の違う部品が組み合わさってできている機械であると考えられる。
 コンピュータでいうと、ハードウェアとソフトウェアで表現する。コンピュータはハードである本体だけでは役に立たない。ソフトがないと働かない。ソフトも命令が書き込んであるだけで、自分が働くわけではない。ハードがソフトの命令で絵を出したり、計算をしたりする。
 生命も同じで、からだがハードで遺伝子がソフトに当たる。遺伝子というソフトの指令に従って、どんな生物になるかを決める。あるいは髪の毛が黒いとか金髪とかを決める。細胞や内臓や組織などのからだがハードに相当する。
 遺伝子はメンデルが考えだした。しかし、その当時は遺伝子が何であるかはわかっていなかった。                                       
 遺伝子はDNA (デオキシリボ核酸)でできている。ハードとして細胞のなかで本当に仕事をしている物質は酵素だ。食べた物を胃のなかで消化し、腸が吸収する。これはみな酵素がやっている。酵素の本体はタンパク質である。もう一つのハードは細胞の外側の膜で、この膜は脂質でできている。
 不思議なことに、これらの大事な部品、核酸、タンパク質、脂質はみんな小さな物質が集まってできている重合体だ。核酸は塩基、糖、燐酸で、タンパク質は20種類のアミノ酸で、脂質はアルコールや脂肪酸からできている。
 これらの分子はすべて水素、酸素、炭素を含んでいる。したがって生命を構成しているのはこの三つがほとんどである。そのほかに、核酸塩基やアミノ酸は窒素を、燐酸は燐を含んでいる。
 生命の大部分は、非常に少ない5種類くらいの元素でできていることがわかる。地球は100種類くらいの元素でできていることを考えると、これは非常に不思議なことだ。100種類ものなかの5種類だけを集中的に使っているのが、地球上の生命の特徴だ。
 動物も植物もだいたい同じで、多い順に、水素、酸素、炭素、窒素となる。動物の場合は次にカルシウム、燐になる。地球の表面を構成している地殻は、水素、酸素、ケイ素、アルミニウム、ナトリウム、鉄、カルシウム、マグネシウムとなり、生物の構成元素とはあまり共通性がない。海は水素、酸素、ナトリウムという順になる。
 ところが宇宙は多い順に、水素、ヘリウム、酸素、炭素、窒素と生命と非常によく似ている。ヘリウムだけが違うが、ヘリウムは不活性元素といい、ほかの元素と反応して化合物をつくる能力がない。だからヘリウムを除くと生命と同じになる。
 このことから、地球上の生命は宇宙と深い関係があることがわかる。むしろ生命は宇宙の産物であるとも言える。
 宇宙のはじまりには、水素とヘリウムだけであった。やがて密度の高いところで、水素が核融合反応をおこなつてヘリウムをつくり、輝きだして星が生まれた。その星の最期に炭素や酸素などがつくられた。あるいは超新星爆発でもっと重い元素がつくられた。
 そうした星がつくった元素が基になって、地球や私たちのからだができている。星の基になる水素は宇宙がつくりだしたことを思えば、私たち生命は宇宙の子、星の子ということになる。

   森本雅樹『生命の旅150億年』イースト・プレス、
      1998、pp.27-31.


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  39-b (生命はどのように進化してきたか)

 ー 生命は海のなかで生まれた ー

 宇宙に銀河ができ、星が生まれた。その星が重い元素をつくっていった。そして星の一つ太陽が生まれて、そのまわりを回る惑星・地球ができた。
 地球は太陽に近く、温度が高かったから、ガスは吹き飛ばされて、炭素化合物なども揮発性があるから吹き飛ばされて、ケイ素ばかりの岩石の星になった。
 40億年前の地球は、海ができ、海の中に小さな陸地があちこちに浮かんでいる状能であった。陸地に降った雨は大地をけずり、陸地の物質が海に流れ込んだ。大気中の二酸化炭素は海に溶け込んで、空は青く晴れ上がった。
 地球に最初の生命が生まれたのは、35億年前、海のなかであった。
 なぜ海のなかで生まれたのだろうか。
 当時の地球の大気は大量の水蒸気と一酸化炭素、窒素で、酸素はほとんどなかった。したがってオゾン層もない。オゾン層は生命に有害な、太陽の紫外線を吸収してくれる。そのために紫外線は地表まで届かない。私たちが今生きていられるのは、オゾン層があるからだ。
 しかし、オゾン層のない当時の地球には、紫外線もたくさん降り注いでいた。だから紫外線の届かない海の底で、最初の生命は生まれた。
 酸素のほとんどない環境で生まれた原始生命は、酸素の存在が有害となる嫌気性であった。たとえば酸素があると成育不可能なものは、メタン細菌や破傷風菌など。嫌気性ではあるが、成育が可能なものでは、乳酸菌や大腸菌などがある。
 もし、地球が海のある環境を維持できなければ、生物は生まれなかった。そしてもし、大気中の二酸化炭素が海に溶け込まなかったら、温室効果で海は蒸発してしまい、やはり生物は生まれなかった。
 温室効果とは、大気中の二酸化炭素に熱を閉じ込める働きがあるため、太陽光で温められた気温を上昇させる現象をいう。
 最初の生命は、約35億年前、海のなかで生まれた。その生命は単細胞で核膜を持たない、原核生物であった。もっとも古い化石は約32億年前のもので、西オーストラリアで発見されている。原始的な細菌類の化石である。

  森本雅樹『生命の旅150億年』イースト・プレス、
      1998、pp.144-145.


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  ー DNA が進化して多種多様の生命を生み出した ー

 今から35億年ほど前に、海のなかで最初の生命が生まれた。その生命はDNA(デオキシリボ核酸)を持っていて、そのDNA が進化して多種多様な生物を生み出した。
 生物にはかならず細胞という形がある。そして物質の交換をおこなっている。たとえば人間は酸素を取り込んで二酸化炭素を出している。植物も光合成をおこなっている。ところがウイルスは別で、生きてはいるけれども、細胞を持っていないので、物質交換をおこなえない。だから欠陥生物になるとのことだ。
 ウイルスは遺伝子としてDNA を持っているものと、RNA を持っているものとの二種類がある。現在、RNA を遺伝子として持っているのはウイルスだけで、たとえばインフルエンザウイルス、エイズウイルスなどがある。
 人間のDNA には人間になるという遺伝情報が入っているし、エイズウイルスのRNA にはエイズウイルスになる情報が入っている。しかも両方とも共通の文字を使い、その組み合わせによって、人間は人間を、エイズウイルスはエイズウイルスをつくつている。
 DNA とRNA の違いは、RNA のほうが糖の酸素が一つ多いだけだ。文字でいえばRNA はウラシル、DNA はチミンである。しかもこの二つの文字はよく似ていて、ほとんど同じものと考えていい。
 ただDNA は丈夫で2本鎖の安定した形をとっているが、RNA はもろくてちぎれやすい。そのために、情報を書き込んでいる文字を簡単に変えることができる。インフルエンザウイルスは変わることで、つぎつぎとまったく違う性質のインフルエンザウイルスになつて、生き延びている。
 DNA の前にRNA の世界があったとする根拠の一つは、RNA だけで生きたウイルスができ上がること。二つめはタンパク質も何もなくても、情報の編集、つまり文字を変えたり文章を変えたりできること。DNA だけでは情報の縞集はできない。
 これはタンパク質もDNA もない時代に、情報として単独で存在することができたことを意味している。
 そしてさらに重要なことは、1992年にわかったことであるが、RNA からタンパク質ができることだ。
 最初の生命はRNA とタンパク質のあいだでできた。つまり生命の起源はRNA であったにちがいない。
 35億年前にDNA を持つ生命が生まれているので、その前の数億年がRNA の世界であったと思われる。
 DNA は細胞のなかで三つのことをしている。自分と同じものをつくる自己複製、タンパク質を合成してからだをつくること、遺伝情報を変化させて、それを次の世代に伝えて進化することの三つだ。
 このなかのタンパク質の合成は、RNA がおこなつている。
 DNA からRNA をつくることを転写、RNA からタンパク質をつくることを翻訳という。 DNA の世界では、DNA の情報をRNA に転写して、転写されたRNA の情報をタンパク質に翻訳している。
 ところがエイズウイルスはRNA からDNA に逆転写する酵素を持っている。
 この酵素によって、RNA の世界からDNA の世界へと、生命の情報を伝えていくことができたのである。


   森本雅樹『生命の旅150億年』イースト・プレス、
      1998、pp.145-148.


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  ー 巨竜の絶滅と哺乳類の繁栄 ー

 15億年前に真核生物が生まれ、多細胞生物が生まれた。それまで、原核生物だけの時代が20億年もあったのに対して、15億年の間に真核生物は単細胞から人類にまで進化したのである。
 7億年前に、肉眼で見ることのできる、海生無脊椎動物が出現した。クラゲやウミエラの仲間たちである。化石では浅い海の底に生息していた、オーストラリアのエデイァカラ動物群や南アフリカのナマ動物群などが発見されている。
 そして5億7000万年前の古生代カンブリア紀に、爆発的な進化が起こる。
 生物は門、綱、目、科、属、種に分類される。たとえば人間は、脊権動物門、哺乳綱、霊長目、ヒト科、ヒト属、ヒト種となる。このカンブリア紀の化石には、綱のすべてのグループが出現している。
 1909年にカナダのロッキー山中で発見された、パージェス動物群の化石はカンブリア紀中期のものだが、柔らかい組織も化石に残していて、その異様な形態が注目を集めた。固い組織を持つ生物も出現し、三葉虫やオウムガイなどの化石がある。
 4億年前に、オゾン層が形成され、生命に有害な紫外線が地上に届かなくなると、生物の陸上進出が始まる。その前のシルル紀からデボン紀にかけて、砂や泥の海底が隆起し、山脈ができ、陸地が広がっていた。
 まず最初にシダ植物を中心とする植物が、つづいて昆虫やクモ類が陸に上がった。脊椎動物は魚類、両生類、爬虫類の順に進化しながら陸上に進出した。
 生命が誕生したのは、海の底であった。やがて光合成生物になると、太陽の光が届く海面に移動していたはずだ。魚類は海のなかから塩分濃度を調節して、淡水である川に進出したものもあっただろう。
 水から離れて、陸上生活をするには、重力に耐えて動き回われるようなからだに変えなければならなかった。生物は進化をすることで、環境に適応していった。陸上の環境が多様性に富んでいたからこそ、多種多様な生物が進化したともいえる。
 2億年前頃、中生代の三畳紀から白亜紀にかけて、爬虫類である恐竜の栄えた時代がくる。1億6000万年もの間、地上に君臨していたのだ。私たち人類は出現して約 400万年でしかない。
 この長期間の恐竜の繁栄は、地球環境の安定がもたらしたものでもある。現在、1年間の日本の温度差は40度くらいだが、当時は1年中気温が安定していて、20度プラスマイナス5度くらい。温度差は10度だった。
 三畳紀中期以降、温和な気候がつづき、地磁気がほとんど変化しなかった。だから恐竜だけでなく、たくさんの生物群が繁栄した。
 そして今から6500万年前、中世代末期に恐竜は絶滅する。
 その原因は、同じ時代にユカタン半島に直径300キロメートルのクレーターをつくつた小惑星の衝突ではないかといわれている。
 直径100メートルの小惑星が衝突したときの衝撃は、広島の原爆の1000個分に相当する。中生代末期に衝突した小惑星は12〜13キロメートルの大きさだ。その衝突によって、膨大な土砂や水蒸気が舞い上がり、地球をおおった。太陽の光は遮られ、1年中真っ暗な日が 2、3年つづいた。
 地球上の生物は食物連鎖の環のなかで生きている。植物を草食動物が食べ、草食動物を肉食動物が食べる。動植物の死骸を微生物が腐らせ、大地にかえして植物の栄養となる。
 小惑星の衝突によって、太陽光が地上に届かなくなると、温度は一挙に30度は下がり、植物が死滅する。するとこの食物連鎖は途絶えてしまう。すべての生物が大量死したが、からだの大きな恐竜はひとたまりもなかったであろう。
 しかし、この恐竜の絶滅が、哺乳類の繁栄をもたらした。
 実際、爬虫類から哺乳類への進化のあいだに、哺乳類型爬虫類が現れた。古生代の後期、石炭紀、二畳紀に繁栄し、全長3〜6メートルの大きなものまでいた。ところがこのグループは、恐竜の繁栄と入れ代わりに、絶滅している。しかし98年1月の発表によると、石川県白峰村で哺乳類型爬虫類、トリチロドンの化石(11本の歯)がみつかった。50〜60センチのネコぐらいの大きさのものは、1億3000万年前くらいまで生きのびていたらしい。
 恐竜時代の哺乳類は大きなものは存在しなかった。ねずみのような哺乳類が、恐竜から逃れて、昼間は穴のなかに隠れ、夜にこそこそと食べ物を探すような、夜行性の生活をしていた。小惑星の衝突はしかも昼間だったことがわかっている。穴のなかに隠れていた哺乳類は生き残った。もちろん、植物が全部死に絶えたわけではなく、哺乳類もほかの生物も細々と生き残ったからこそ、現在に続いているのだ。
 こうした地球環境を変えるほどの、ものすごいインパクトがあると、生命の進化が加速されるといわれている。
 これは進化だけでなく、人間にも言えることだ。のほほんと生活していると進歩はないが、厳しい環境にあると、人間はいろいろなことを成し、いろいろなタイプの人間が現れて、新しいことを考えだして進歩する。

   森本雅樹『生命の旅150億年』イースト・プレス、
      1998、pp.152-156.

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